今回は、これまで多数出版されたジャズのレコード・CDのガイドブックから私の座右の書、ほか2冊について書いてみます。

①私の座右の書「ジャズ・レコード・ブック」

1968年に初版の「ジャズ・レコード・ブック」を手にしたのは、私がジャズを聴き始めた大学1年だった1972年。筆者の粟村政昭氏は、当時スウィングジャーナル誌などで、辛口コメントで知られた、本業が医者の評論家。同書の副題は「キング・オリバーからアルバート・アイラーまで」となっており、レーコード録音の黎明期から、1960年代中頃まで、181人ものミュージシャンを対象にしています。

初版出版時、粟村氏は35歳。ジャズを聴き始めてから15年で、この本を書き上げたことになります。医者になるための勉強、研修、実務をこなす多忙な中で、これだけの内容が書けるほど、ジャズに情熱、愛情をかたむけたこと自体、凄いことと思います。

私が45年間、座右に置く理由は、粟村氏が、それまでの世評やコマーシャリズムに動かされることなく、自分自身のジャズ観で堂々と語っている点。(世に「ジャズ評論家」を肩書にされる方は、多数おられますが、ジャズ評論が生活の糧になっている方が多く、妥協的コメントと思われるものが少なくありません。)

また、粟村氏の文章は、格調も高く、良く練られており、一方でユーモアのセンスもあり、「そうだよね」と思わせるコメントも随所にみられます。

初版本は、ボロボロになり、現在手元にあるのは、1979年の改定版です。古本屋で見つけたら是非入手されることをお勧めします。

 

②ビギナーからベテランまで楽しめる「ポートレート・イン・ジャズ」

文庫本が、増刷を繰り返していますので、お持ちの方もたくさんおられるかと思います。イラスト担当の和田誠氏、文章担当の村上春樹氏の共著です。

和田誠氏のイラストは、ミュージシャンの特徴を切り取った、楽しさ一杯の出来。村上春樹氏は、昔ジャズ喫茶を経営していただけあって、ジャズの造詣が深く、文章はハルキストが愛する独特の表現で、何度読んでも味わい深く、スルメみたいに楽しんでいます。(ご本人は、別のところでハルキストでなく「村上主義者」と呼んで欲しいと書いていますが・・・)

この本を読んで、私がこれまで聴いたことがなかった、次の3枚を店のコレクションに加えました。
「Benny Goodman Presents Eddie Sauter Arrangements」、「Cannonball Adderley Live!」、「Bixieland in with Eddie Condon」

音楽界全体からみると、マイナーな音楽であるジャズを、ノーベル文学賞候補にもあがる世界的な作家が、ここまでディープに愛しておられることは、ジャズを愛するものにとって、誇らしいですね。How lucky we are!

私は、1978年頃に、当時千駄ヶ谷にあった村上春樹氏の「ピーターキャット」を訪問しました。ビルの2階にある、洒落たお店でした。寡黙なマスターとは、二言三言お話しただけでしたが、今となっては、その時いただいたマッチと共に、かけがえのない想い出となっています。

 

③「厳選500 ジャズ喫茶の名盤」

ジャズ喫茶イーグルの店主で、ジャズ評論家としても長年活躍されている、後藤雅洋氏が、2015年に上梓されたガイド本です。同氏は2010年に「一生モノのジャズ名盤500」を出されており、この2冊は、レコード・CDにダブリがありませんので、兄弟本という位置づけです。同氏は、30年にわたり20冊ほどガイド本を出版されていますが、この兄弟本を注意深く眺めると、過去のガイド本の推薦レコード・CDも多数混じっていることから、後藤氏の集大成のガイド本という感じです。

3年前に店を開いた私にとって、これまで聴いていないレコード・CDも数多くあり(特に比較的最近、録音されたもの)、この本を参考に店のコレクションの充実をはかりました。

私が羨ましいのは、この本で紹介されている「コンテンポラリー・ジャズ」、「ユニーク・ジャズ」「フリー・ジャズ」の各々の欄で紹介されているものをお店でかけることができること。これは、イーグルが昼間の時間は、会話禁止でジャズを集中的に聞かせる環境で営業できているためでしょう。私の店で、これらのうちの一部は、とてもかけられません。(ほとんどのお客様は帰ってしまい、二度といらっしゃらないと思います。)

ということで、昔のジャズ喫茶はともかく、これらはイーグルのように、今や特別な環境となった店でしか使えないものですね。やむを得ず私は、開店前の掃除の時間に個人的に楽しんでいますが・・・(笑)