Zoot Sims Fanclubのメンバー向けの雑誌「Zoot Case Vol.2」に投稿した記事を紹介します。

「日系ドラマーAkira Tanaさんが語るZoot Simsの想い出」

ズート・シムズ・ファンクラブ会報誌・創刊号の「ジャズ・コージー・スポット Vol.1」で、ご紹介いただいた、横浜の仲町台で、ジャズ喫茶Tommy’s By The Parkを営んでいる和田と申します。

Zootのライブを聴いた経験のない私ですが、ファンクラブの会員になったこともあり、何かZootに因んだお話を紹介できないかと思っていました。

昨年4月、オルガンの敦賀明子カルテットの来日公演を楽しんだのですが、その時のドラマー、日系二世のAkira Tanaさんが、Zootの晩年に当たる1981年~1983年のパブロ盤3枚のレコーディングに参加していたことを思い出しました。

同カルテットの招聘に関わったM氏にお願いし、Akira Tanaさんが仕事で再来日した昨年10月、会食をしながら話を聞くことができました。

Akira Tanaさん(左)とご子息カップル

Akira Tanaさんは、ズート・シムズ・ファンクラブの会員証を手に取り、満面の笑みで「Zootのファンクラブが日本に出来たんだ~!」と、当時を懐かしんで会話が始まりました。

当日はAkira Tanaさん以外に、仲介いただいたM氏、Akira Tanaさんのご子息など4名が一緒で、他の話題も飛び交う中、英語で行われました。以下その内容をまとめたものです。

<Zootとの演奏について>

① 共演のきっかけ
1979年にSonny Rollinsのバンドで全米ツアーに出たことで注目され、1980年早々からニューヨークのジャズシーンで、Milt Jackson、Art Farmer、Sonny Stitt、Heath Brothers、JJ Johnsonといったジャイアンツと共演できたんだが、このような活動が認められZootとの共演につながったんだ。共演はZootだけのカルテットの時もあれば、Al and Zootのクインテットの時もあった。1980年代のニューヨークで、Zootを含む偉大なミュージシャン達と共演できたことは貴重な財産だ。

② Zootの演奏について
Zootの演奏を聴いた誰もが感じることと思うが、彼ならではのSwing感があった。いつもEasygoingな演奏だった。また、ライブの最後の曲のエンディングを毎回変えていたことも印象に残っている。
Zootは一切リハーサルをやらなかった。これは勉強になったよ。

③ Zootとのレコーディングの想い出
パブロのレコーディングは、3枚ともマンハッタンにあるRCAスタジオだった。
RCAスタジオは、巨匠トスカニーニがNBC交響楽団とレコーディングしたり、エルビスプレスリーがレコーディングした名門スタジオで、そんなスタジオでのレコーディングは初めての経験だった。

スタジオが広くてびっくりした。ブースに分かれていない広い部屋で、4人が離れたため、音が聞き取りにくいので、ヘッドフォンが欲しいと言ってプロデューサーのNorman Granzに頼んで持ってきてもらったことを覚えている。

④ 気に入っている共演
1983年に、オランダにツアーに行ったんだ。ピアノがRichard Wayans、ベースがRed Mitchellのカルテットだった。この時の演奏が、自分としては一番良かったと思う。確かライブが録音されていたと思うんだけれど、どうなったのかな~。

<Zootにまつわる想い出など>

・Zootが怒ったところを一度も見たことが無いよ。とてもおおらかな人だった。

・酒豪で知られたZootだったけれど、共演した頃は、体調のことがあったからだと思うけど、お酒は飲んでいなかった。

・Zootも奥さんのLouiseも、ホームパーティが好きで、ニューヨーク州のWest NyackにあったZootの家に何度もお邪魔した。スペアリブやZoot特製のチリを用意してくれていたね。懐かしい想い出だよ。(筆者注:奥さんのLouiseさんは、KoreanとAkira Tanaさんは言っていました)

・ペンシルバニア州にAl and Zoot Societyがあるんだ。日本にズート・シムズ・ファンクラブが出来たことを報告しておくよ。

【補足資料】
① Akira Tanaさんの経歴
1952年カリフォルニア州San Jose生まれの日系2世。ハーバード大学を1974年に卒業。その後ニューイングランド音楽院を経て、プロ活動を開始。1979年からニューヨークで活動。
Sonny Rollins、Zoot Sims、Milt Jackson、Art Farmer、Sonny Stitt、Heath Brothers、J.J Johnson、Jim Hall、Lena Horne等の一流ジャズミュージシャンと共演。またジャズ以外の幅広いジャンルのアーティストとも共演。録音に参加したアルバム数は150枚を超える。ベーシストのRufus Reidと双頭コンボの「TanaReid」を10年以上に渡り結成し、6枚のアルバムを発表し人気を博す。
音楽講師としても多忙で、これまでラトガース大学、ニューヨーク大学などで教鞭を執った他、現在は、地元のサンフランシスコ州立大学やバークレーのジャズ・スクールで教えている。

② Akira TanaさんがZootと共演したパブロの3枚のアルバム
I WISH I WERE TWINS

1981年7月録音 Jimmy Rowles(P) Frank Tate(B)

THE INNOCENT YEARS

1982年3月録音 Richard Wyands(P) Frank Tate(B)

SUDDENLY IT’S SPRING

1983年5月録音 Jimmy Rowles(P) George Mraz(B)