店の常連のMさんに教えていただいた、「Three Wishes」の面白さを共有いただければ、と思い紹介します。

皆さんは、パノニカ・ド・コーニグズワーターという女性をご存じですか?舌を噛みそうな名前に馴染みがなくても、ジャズファンであれば、ニカ男爵夫人(愛称)は知っていますね。そうです。ジャズ・ミュージシャンのパトロン(女性ですから、正しくはPatronessですね)として有名な方です。特にセロニアス・モンクとの交流は、逸話がたくさん残っていますね。

この本は、ニカ男爵夫人が、300人のミュージシャンに、あなたの「Three Wishes」(三つの願い)は何?、と聞き、その答えをまとめたものです。(1961年から数年に渡って聴取)

ミュージシャンの回答が興味深いのは、もちろんですが、併せて掲載されている多数の写真は、彼女がポラロイドで撮ったものも含め、何気ない瞬間を写したものが多く含まれています。他では見ることができない普段着、無防備のミュージシャンの表情が素晴らしいですよ。(Miles Davisのこんな表情は初めて見ました)
本全体の半数以上のページが、これらの写真で埋め尽くされています。

私が入手したのは、英語版ですが、Mさんは日本語版もお持ちで、これをお借りしたのですが、その本のカバーには、「ジャズの巨人300人の願いと秘蔵プライベート写真でつづるニカ夫人の奇跡のフォト・アルバム」と書いてありました。「ジャズの巨人300人」とありますが、ジャズの巨人と呼べるのは、せいぜい数10人と思いますので、巨人300人は言い過ぎですね。
後半の表現「秘蔵プライベート写真でつづるニカ夫人の奇跡のフォト・アルバム」は言い得て妙です。

「Three Wishes」の回答は、切実(お金が欲しい)、真面目(平和・健康)、冗談としか思えないもの、などに分類できるように思います。
また、キューバ危機や人種差別など、時代背景を感じさせる回答も散見されます。ここでは、二人の真のジャズの巨人の回答を紹介するにとどめます。

Miles Davis:白人になりたい。(To be white !)
Duke Ellington:私の願いはシンプル。最高のものだけが欲しい。(My wishes are very simple. I just want nothing but the best.)

英国ロスチャイルド家の一族として生まれ、フランス人の男爵と結婚し、5人もの子供をもうけたニカ男爵夫人は、39歳で離婚。(紹介を省きますが、ここまでの彼女の人生も興味深いエピソードがいっぱいです)
その後、1955年にニューヨークに移り住んで、1988年に75歳で亡くなるまで、セロニアス・モンクを筆頭に数多くのジャズ・ミュージシャンを私財をなげうって支援。有名な、Horace Silver作曲の「Nica’s Dream」をはじめ、20人以上のミュージシャンが、ニカ男爵夫人に捧げた曲を作っています。彼女の献身的な支援に感謝するミュージシャンが如何に多かったかがわかりますね。ジャズ界にとって彼女の存在が如何に大きかったかの証左と思います。

この本は、英語版、日本語版は共にアマゾンで購入できますが、英語版は、2,064円、日本語版は、4,320円。日本語版は高すぎですね。(私は上記のとおり英語版のみを購入しました)

教えていただいたMさん、本当にありがとうございました。